社労士コラム
社労士コラム
作成日:2025/09/04
教科書には載らない実務のリアル



有志の社会保険労務士が集まり、都合があえば情報交換を行っています。
ここでは、制度の条文や教科書には書かれていない“実務のリアル”をテーマに、ざっくばらんに議論しています。
 
今回取り上げるのは 「養育特例の実務上の落とし穴」 です。
話題のきっかけをくださったのは、ベテランでお酒好き、勉強会をいつも楽しく盛り上げてくださる女性社労士の先生。
実際に遭遇した事例から、大切なポイントを共有します。

❓ 養育特例制度とは?
「養育特例制度」とは、3歳未満の子を養育している厚生年金の被保険者が対象です。
この期間に勤務時間短縮などで標準報酬月額が下がった場合――
保険料は下がった後の低い標準報酬月額をもとに計算されますが、
将来受け取る年金額は、子が生まれた月の前月の標準報酬月額で計算される
という仕組みで、不利益が生じないように保護されます。
ただし、この制度は 本人の「申出」によってのみ適用されるのが特徴です。

⚠️ 落とし穴@ 説明のタイミングと対象範囲
・いつ説明するのがベスト?
年金事務所への届出と、会社が従業員に説明するタイミングは一致しません。
「出産・育休開始時?」「職場復帰時?」で迷う企業が多いのです。

・誰に説明すればいいの?
男女とも対象ですが、男性社員には案内が漏れがち。さらに転職者に対しては、前職で説明を受けていないケースが多く、現職での再周知が必要になります。
(実話)手続きの対象となる全員に当事務所は意思確認をしておりますが、男性社員から「必要ありません」と回答されることがありました。
女性からこの回答は一度もありません。
⚠️ 落とし穴A 「申出制」であること
養育特例制度は 従業員本人の申出によってのみ成立します。
会社が自動的に手続きを進めることはできません。

👉 つまり…
  • 会社が制度を知らなければ案内できない
  • 従業員が制度を知らなければ申出できない
この二つが重なると、せっかくの権利が“なかったこと”になってしまいます。
📌 実際にあった失敗例
  • 大企業での見落とし
ある従業員1,000名超の大企業で、養育特例についてほとんど説明がされていませんでした。
結果として、多くの従業員が制度を利用できなかったと考えられます。

  • 労働者からの苦情
「制度を知らなかったために申出できず損をした」と、労働者から会社へ苦情が寄せられたケースもありました。
説明不足は単なる手続きミスにとどまらず、従業員の信頼を損ね、後々トラブルにつながることがあります。

まとめ
養育特例制度は、将来の年金額に大きく関わる重要な仕組みですが、「申出制」であるがゆえに周知不足や誤解が命取りとなります。
本コラムでは、こうした教科書には載らない実務のリアル をこれからも掘り下げ、現場で役立つ知識を共有していきます。