前回までは、企業内や産業別の労働組合について見てきました。 今回は、もう一つの形である「合同労組(合同労働組合)」について取り上げます。 特定の企業や業種に属さず、個人単位で加入できる労働組合であり、いまの多様な働き方の中で特有の役割を担っています。
■合同労組との出会い ― Aさんの話
今回お話を伺ったAさんも、実は合同労組のメンバーです。 前回紹介した労働組合向けの雑誌にも関わっており、雑誌の購読者の中には合同労組も一定数含まれていたそうです。 ただし、企業内の労働組合に比べると、やはり数としては少なかったとのことです。
合同労組が発行する新聞には、定期大会の報告や弁護士との学習会の記事、そして組合員の「声」が多く掲載されています。 個人で長く悩みを抱えてきた人が「労組に助けられた」と語る体験談は、読んでいて非常に印象的です。 その一つひとつが、組織の理念である「支え合い」を体現しているように感じます。
■組合員の支えで成り立つ組織
合同労組の活動は、組合員の組合費によって支えられています。 月千円くらいから数千円くらいの組合費で運営され、専従職員はごくわずか。多くの活動はボランティアの組合員によって行われています。
労働条件の改善や会社への抗議行動もすべて自発的な参加です。 組合から「〇月〇日、〇時に集合」と連絡があり、参加者は自費で交通費を払い、昼食も各自でとります。 会社の前でビラを配布し、窮状や企業の非道について社会に訴える。時には声を上げて訴える――そうした行動の背景には、個人が抱える深刻な問題があります。 彼らの活動は確かな連帯の意識によって成り立っているのです。
■Aさんが見た「もう一つの労働運動」
Aさんは20代のころ、いくつかの中小企業に勤めていたそうです。 勤めた会社の一つにレコード針を製造していた会社があり、高級品がマニアの間で人気を集めていました。針だけで数万円する商品もあったそうで、会社は小規模ながら、それなりの利益があがっていました。
ところが、状況はあっという間に変わりました。 CDが登場し、レコード針の需要は一気になくなったのです。 その会社は倒産し、社長は商品を持って雲隠れ。Aさんは二十代のうちに、この会社を含めて三度の倒産を経験したといいます。そのたびに賃金の未払いが発生し、労働者は置き去りにされました。
そうした中で支えになったのが合同労組でした。 未払い賃金の立替払い制度の申請や交渉をサポートし、労働者の立場を守ってくれたといいます。Aさんは「合同労組に非常に助けられた」と当時を振り返っていました。
■合同労組が果たしている役割
合同労組は、会社に属さない個人でも加入できることに意味があります。 近年は、非正規雇用や業務委託など、伝統的な労働組合の枠に収まらない働き方が増えています。 その中で、合同労組は「どこにも相談できない人たち」の受け皿として機能しているのです。
弁護士や専門家と連携し、相談から交渉、訴訟支援まで幅広く行っており、いわば“現代の駆け込み寺”といえます。 特に、未払い賃金や不当な契約終了など、制度の狭間で困っている人にとって、合同労組の存在は重要な役割を担っています。
■労働組合・合同労組の現状と未来
合同労組の組織率は2024年の調査によると過去最低水準を記録しています。日本の労働組合の組織率自体が低下傾向にあり、これは日本だけでなく世界的な傾向でもあるようです。厚生労働省「労働組合基礎調査」(2023年)によると
ピーク時 1975年(昭和50年)35.4%、2023年 16.4%です。
こうなるにはいくつもの理由があります。
- 雇用の流動化 転職が増え、一つの企業へのロイヤルティーは変化しました。
- 非正規化の進展
- 若年層の意識変化 組合=古い、対立的という印象に距離を置く人が増加
- 賃金・労働条件交渉の場が「人事評価」や「面談」に吸収される
があげられます。
また一つ上げられるのが「インターネット」の出現があると考えます。働き方が「企業単位」から「個人単位」へ大きく変わり「同じ企業・同じ職場で団結して交渉する」組合モデルが機能しにくくなったことも一つの要因と考えます。
■官製春闘とこれからの「労働組合」の未来とは
「春闘」は日本独自の賃金決定システムです。
ただ、近年これは「官製春闘」とも言われ政府が労使交渉に介入しています。政権が「政労使会議」を開催し「賃上げ促進税制」その他の「助成金」というニンジンをぶら下げての「賃金をあげろ!」と圧力がかけています。
これは適切な労使の関係なのでしょうか。
「労働組合」が本来持つ「労働者の団結」はどうあるべきなのでしょうか。
私は「労働組合が持つ力」が失なわれているとは考えたくありません。
むしろ「働き方が変わる時代に合った模索」の先に「新しい連帯の形、新しい集合体」へと進化する、そう考えます。
■おわりに
社会保険労務士として実務に携わると、会社側から合同労組を見ることが多いものです。 しかし、その裏側には「働く人が最後にたどり着く場所」というもう一つの現実があります。 Aさんの経験を通して、労働組合・合同労組が果たしてきた役割を改めて考えるきっかけになりました。













