作成日:2026/04/02
AIを社労士事務所で導入してみた -AIを導入する前に、まず「何に使いたいのか」を整理してみた
今回より、AIに関するコラムを奥田先生にご執筆いただくことになりました。
奥田先生は、当事務所の勉強会にもご参加いただいておりますが、これまで
企業の人事部門、税理士法人、外資系BPO会社でのご経験をお持ちの、実務に精通した社会保険労務士の先生です。
先日、他士業の先生方とご一緒にAIに関する研修を実施していただきましたが、その内容が非常に実践的で分かりやすく、大変印象に残りました。
そこで今回、当事務所におけるAI導入のご支援をお願いするとともに、コラムのご執筆もお願いすることとなりました。
社労士業務とAIをどのように結びつけていくかは、これからの時代において避けて通れない重要なテーマです。
本コラムでは、そのヒントとなる実務的な視点を、全6回にわたりお届けしてまいります。
AIを社労士事務所で導入してみた(全6回)
第1回:AIを導入する前に、まず「何に使いたいのか」を整理してみた
この回で伝えたいこと:生成AIを導入するにあたり、まず取り組んでいるのは「AIの使い方を覚えること」ではなく、「自分が何に困っているかを言語化すること」です。そしてその整理作業こそ、実はAIが力を発揮する場面です。
はじめまして。社会保険労務士の奥田晶子です。
ピクシスサポート社労士事務所の代表として社労士業務を行う傍ら、士業事務所への生成AI導入支援や、勉強会の開催なども行っています。
【補足:セキュリティについて】
おそらく、この記事を読んでいる方の中にも同じ思いの方がいらっしゃるのではないでしょうか。「AIがすごいらしい。」「業務効率化に使えるらしい。」そうした話は耳に入ってくるけれど、自分の事務所で具体的に何をどうすればいいのかが見えない。澤田先生もまさにその状態でした。
私からの最初のお願いはシンプルなものでした。
「まず、AIにやってほしいことをメモ形式で書き出してみてもらえますか?」AIの使い方を教える前に、そもそも何に困っているのかを言葉にしてもらうことから始めたかったのです。
背景情報を渡してAIに仕分けさせてみた
実は澤田先生ご自身も、メモを作成しながらChatGPTに「AIを使いこなすとはどういうこと?」と聞いてみたそうです。ただ、返ってきたのは「テンプレートを持つこと」「作業時間が1/3〜1/5になる」といった、もっともらしいけれど実感の湧かない回答だったとのこと。
一方、当法人の背景情報と具体的な指示を添えてAIに聞くと、返ってきた回答はかなり変わりました。「就業規則のチェック観点の洗い出しはAI向き」「勤怠データの集計自体はExcelや専用ソフトの領域」「手続きの漏れチェックは、チェックリストのたたき台作成ならAI向き」といった具合に、業務ごとに具体的な仕分けが出てきたのです。ChatGPTでも、背景情報と具体的な指示を渡すだけで、結果がまるで違う。これは澤田先生にとって大きな発見となったようです。また澤田先生が後日、経営戦略の壁打ちにもAIを使ってみたところ、ピンとくる回答が来た、とご連絡をいただきました。
ただし、ここで重要なのは、AIが出した仕分けが「そのまま正解」ではないということです。たたき台としては非常に助かりましたが、この仕分けが当法人の実態に合っているかどうかは、実務に日々携わられている先生ご自身の知識がなければ判断できません。
ここに、本シリーズを通じてお伝えしたい考え方の核心があります。
AIは整理・比較・たたき台作成・漏れチェックを担い、最終判断と責任は人が持つ
生成AIは、情報を整理し、比較し、たたき台を作ることが得意です。しかし、その出力が自分の事務所に合っているかどうかを判断するのは、あくまで人の仕事です。本シリーズでは、この「AIに任せること」と「人が責任を持つこと」の責任の線引きを一貫した軸としてお伝えしていきます。この仕分けの詳細は、次回の第2回で掘り下げます。
まず作るべきは「利用ルール」
どんなに便利な道具でも、使い方を決めずに全員に渡したら現場は混乱します。まずは「どこに使い、どこには使わないか」の線引き。これが、事務所にAIを導入する最初の一歩だと考えています。
次回予告
AIを社労士事務所で導入してみた(全6回)
第1回:AIを導入する前に、まず「何に使いたいのか」を整理してみた
この回で伝えたいこと:生成AIを導入するにあたり、まず取り組んでいるのは「AIの使い方を覚えること」ではなく、「自分が何に困っているかを言語化すること」です。そしてその整理作業こそ、実はAIが力を発揮する場面です。
はじめまして。社会保険労務士の奥田晶子です。
ピクシスサポート社労士事務所の代表として社労士業務を行う傍ら、士業事務所への生成AI導入支援や、勉強会の開催なども行っています。
本コラムでは、イー・ワーク社会保険労務士法人(以下当法人)で生成AIの導入に一緒に取り組んでいる3か月間の記録を、全6回にわたってお伝えしていきます。成功したことも、期待ほどではなかったことも、できるだけ正直に書くつもりです。これからAIの導入を考えている事務所の方にとって、「うちでもできそうだ」と感じていただけるきっかけになれば幸いです。
【補足:セキュリティについて】
本コラムで紹介するAI活用は、伴走開始前にセキュリティ面の基本方針を整理したうえで進めています。具体的には、個人情報はAIに入力しないこと、学習機能をオフにすること(当法人で導入しているChatGPTのビジネスプランでは、入力内容をモデルの学習に利用しない旨が明記されています)などを事前に確認しました。運用ルールの詳細は第3回で取り上げます。
「興味はあるけど、何から手をつければいいかわからない」
「興味はあるけど、何から手をつければいいかわからない」
今回の伴走は、代表の澤田由美子先生からこんなご相談をいただいたことから始まりました。「生成AIを社労士業務に使ってみたい。興味はあるんだけど、何から手をつければいいかわからない。」
おそらく、この記事を読んでいる方の中にも同じ思いの方がいらっしゃるのではないでしょうか。「AIがすごいらしい。」「業務効率化に使えるらしい。」そうした話は耳に入ってくるけれど、自分の事務所で具体的に何をどうすればいいのかが見えない。澤田先生もまさにその状態でした。
私からの最初のお願いはシンプルなものでした。
「まず、AIにやってほしいことをメモ形式で書き出してみてもらえますか?」AIの使い方を教える前に、そもそも何に困っているのかを言葉にしてもらうことから始めたかったのです。
メモを書き出してもらったら、課題の輪郭が見えてきた
数日後、先生からメモが届きました。書き出されていた「やりたいこと」は、大きく4つの領域に分かれていました。
- 就業規則まわり(誤字脱字チェック、新旧対照表の漏れ確認など)
- 給与計算まわり(勤怠集計の効率化、変更対応の漏れ防止など)
- 手続き関連(漏れチェックの仕組み化、個人情報の取り扱い)
- 業務フロー(顧客ごとの業務進捗を、もっと見やすく可視化したい)
こうして並べてみると、ひとくちに「AIにやってほしい」と言っても、求められる処理の性質にはかなり幅があることがわかります。マニュアルのたたき台を作ることと、勤怠データを集計すること。どちらも「効率化したい業務」ですが、必要な仕組みはまったく違います。このリストの中に「生成AIが得意な業務」と「生成AIではなく別の手段が適切な業務」が混在していること。これが最初の大きな気づきでした。
背景情報を渡してAIに仕分けさせてみた
このメモを受け取って、私はあることを試しました。当法人の背景情報——法人の規模、主な業務内容、使っているソフト、スタッフ体制など——と合わせてChatGPTに渡し、「この業務の中で生成AIと相性が良いもの・悪いものに仕分けして、理由も書いてほしい」と指示を出したのです。
実は澤田先生ご自身も、メモを作成しながらChatGPTに「AIを使いこなすとはどういうこと?」と聞いてみたそうです。ただ、返ってきたのは「テンプレートを持つこと」「作業時間が1/3〜1/5になる」といった、もっともらしいけれど実感の湧かない回答だったとのこと。
一方、当法人の背景情報と具体的な指示を添えてAIに聞くと、返ってきた回答はかなり変わりました。「就業規則のチェック観点の洗い出しはAI向き」「勤怠データの集計自体はExcelや専用ソフトの領域」「手続きの漏れチェックは、チェックリストのたたき台作成ならAI向き」といった具合に、業務ごとに具体的な仕分けが出てきたのです。ChatGPTでも、背景情報と具体的な指示を渡すだけで、結果がまるで違う。これは澤田先生にとって大きな発見となったようです。また澤田先生が後日、経営戦略の壁打ちにもAIを使ってみたところ、ピンとくる回答が来た、とご連絡をいただきました。
ただし、ここで重要なのは、AIが出した仕分けが「そのまま正解」ではないということです。たたき台としては非常に助かりましたが、この仕分けが当法人の実態に合っているかどうかは、実務に日々携わられている先生ご自身の知識がなければ判断できません。
ここに、本シリーズを通じてお伝えしたい考え方の核心があります。
AIは整理・比較・たたき台作成・漏れチェックを担い、最終判断と責任は人が持つ
生成AIは、情報を整理し、比較し、たたき台を作ることが得意です。しかし、その出力が自分の事務所に合っているかどうかを判断するのは、あくまで人の仕事です。本シリーズでは、この「AIに任せること」と「人が責任を持つこと」の責任の線引きを一貫した軸としてお伝えしていきます。この仕分けの詳細は、次回の第2回で掘り下げます。
まず作るべきは「利用ルール」
初回の伴走を終えて、先生と共有した結論はシンプルなものでした。いきなりすべての業務にAIを入れるのではなく、まずは「何にAIを使い、何には使わないか」を整理すること。その整理を経て、事務所としての利用ルールを作ることを最初のゴールに設定しました。
どんなに便利な道具でも、使い方を決めずに全員に渡したら現場は混乱します。まずは「どこに使い、どこには使わないか」の線引き。これが、事務所にAIを導入する最初の一歩だと考えています。
次回予告
第2回では、澤田先生のリストをもとに社労士業務を「AIと相性が良い・普通・悪い」の3段階で仕分けした結果を公開します。「相性が悪い」業務にはどんな代替手段があるのかも含めて整理していきます。
執筆者プロフィール
奥田 晶子(おくだ・あきこ)
ピクシスサポート社労士事務所 代表
公益財団法人、ITチケット販売会社、ソフトウェア研究開発企業などで人事・総務を経験。成長期のIT企業でひとり人事を務め、採用から労務管理まで一手に担った。その後、大手税理士法人や外資系BPO会社を経て、幅広い業界の給与計算業務に携わる。2023年社労士試験合格、2024年開業。「ひとり人事だった頃、法的な相談相手がほしかった」という原体験から、中小企業の人事担当者や人事部門を持たない経営者の労務相談を主軸に据える。スタートアップの労務立ち上げと給与計算支援が専門。就業規則・賃金規程を正確に給与計算へ反映し、未払い賃金リスクの低減を支援している。












