社員が突然来なくなったとき、会社はどこまでできるのか
― 一人暮らし・身寄りがない社員の無断欠勤から考える ―
前回は、社員が無断欠勤したときの初動対応について取り上げました。無断欠勤が起きた場合、会社が最初に行うべきことは、退職や処分を考えることではなく、まず本人の安否と事実関係を確認することです。
今回は、勉強会で出たある先生の経験談をもとに、もう一歩踏み込んで考えてみます。
<経験談>
顧問先は製造業。対象となった社員は50歳代で、一人暮らしでした。勤続年数も長く、勤務態度も真面目で、これまで無断欠勤など一度もありません。健康状態も良く、会社や上司、同僚とも良好な関係を保っていた社員でした。
ところが、ある日突然、出勤しなくなりました。
会社がおかしいと思い、電話をしても本人は出ません。自宅に電話をしても誰も出ません。
会社への申告では、両親はすでに他界しており、他の家族はいないとのことでした。数日たっても連絡が取れず、自宅を訪ねても鍵がかかっていて中の様子は分かりません。会社としては、安否が分からず、非常に心配な状況です。
そこで警察へ相談し、行方不明者届、いわゆる捜索願を出そうとしたところ、第三者である会社からの届出としては、すぐには受け付けてもらえなかったということでした。
この経験談から分かることは、会社が社員を心配して警察へ行けば、必ずすぐに警察が動いてくれるとは限らないということです。もちろん、事件性や緊急性が疑われる場合には、警察へ相談すべきです。しかし、成人の社員で、事件性が明らかではなく、家出なのか、本人の意思による不在なのか、事故なのかが分からない段階では、会社ができることには限界があります。
特に、一人暮らしで、家族や親族の情報が十分にない場合、会社は非常に難しい立場に置かれます。本人の安否は心配である一方で、会社は親族ではありません。自宅の鍵を開けることもできませんし、本人の私生活に無制限に立ち入ることもできません。
このケースでは、結局、会社は本人と連絡が取れないまま、1か月以上が経過しました。その後、2か月程度待ったところで、会社は退職に関する手続きを進めたとのことです。
しかし、さらに数か月が経過した後、警察から連絡がありました。
実は、その社員は何らかの事件に巻き込まれ、亡くなっていたことが判明したのです。
詳細は会社には開示されなかったとのことですが、会社が心配していた最悪の事態が起きていたということになります。
その後、遠い親戚にあたる方と連絡が取れ、会社に残された荷物などを引き取ってもらうことになったそうです。これは、大変残念なケースです。
同時に、会社が「無断欠勤」と見える出来事の背景には、本人の意思だけでは説明できない事情が隠れていることがある、ということを強く示しています。
会社が確認しておくべきこと
このようなケースを踏まえると、会社は日頃から、緊急連絡先と本人の生活環境を確認しておく必要があります。
入社時に緊急連絡先を提出してもらっていても、その情報が古くなっていることがあります。
親が亡くなっている、親族と疎遠になっている、転居している、電話番号が変わっている、ということもあります。緊急連絡先は、入社時だけでなく、定期的に確認することが重要です。
また、一人暮らしなのか、家族と同居しているのか。
家族と同居している場合、家族は会社からの連絡先として登録されているのか。一人暮らしの場合、万一のときに連絡できる親族や知人はいるのか。このような点も、緊急時の連絡体制として確認しておく必要があります。
会社が社員の私生活を細かく把握する必要はありません。しかし、緊急時に誰へ連絡すればよいのかは、安否確認の観点から重要です。
本人と連絡が取れなくなった場合の社内対応も、あらかじめ決めておく必要があります。
出勤予定時刻を過ぎても連絡がない場合は、まず上司や人事、勤怠システム、社内チャット等を確認する。当日中に本人へ電話、メール、SMS等で連絡する。それでも連絡が取れない場合は、緊急連絡先へ安否確認を行う。数日たっても連絡が取れず、事故や事件の可能性が否定できない場合には、警察へ相談する。このように、会社内で初動対応の流れを決めておくことが大切です。
警察への相談と行方不明者届
一般に「捜索願」と言われるものは、現在では「行方不明者届」と呼ばれます。行方不明者届は、家族や親族だけでなく、一定の場合には雇主など、行方不明者と社会生活上密接な関係を有する者も届出できるとされています。ただし、実際にどのように受理され、どの程度警察が動くかは、事案の内容、緊急性、事件性、届出人が持っている情報の程度などによって異なると考えられます。
そのため、会社としては、警察へ相談する場合にも、できる限り事実を整理しておく必要があります。具体的には、次のような情報です。
- 最後に出勤した日
- 最後に本人と連絡が取れた日
- 欠勤が判明した日時
- 本人への連絡方法と結果
- 自宅を訪問した日時と状況
- 緊急連絡先への連絡状況
- 本人の勤務状況や普段の様子
- 事件や事故を疑う事情の有無
- 会社が把握している親族・関係者の情報
警察へ相談する際に、会社が「連絡が取れない」というだけでは、状況が十分に伝わらない可能性があります。会社として、いつから、どのように連絡が取れないのか、普段と比べてどの点が異常なのかを具体的に説明できるようにしておくことが重要です。
無断欠勤と決めつけない
このケースで特に考えさせられるのは、対象社員が、これまで問題のある社員ではなかったという点です。
無断欠勤という言葉だけを見ると、勤務態度の問題として受け止められがちです。しかし、普段まじめに勤務していた社員が突然来なくなった場合には、単なる欠勤ではなく、事故、事件、急病などの可能性も考える必要があります。
もちろん、会社がすべてを調査できるわけではありません。会社にはできることとできないことがあります。しかし、少なくとも会社としては、本人に連絡を取ったか、社内に連絡が入っていないか、緊急連絡先に確認したか、必要に応じて警察へ相談したか、その経過を記録しておく必要があります。
大切なのは、早い段階で「無断欠勤だから本人の問題」と決めつけないことです。特に、一人暮らしで身寄りがない社員の場合、会社が気づくことが、結果として唯一の異変の発見になることもあります。
日頃から整えておくべきこと
このような事態に備えて、会社は次の点を整えておくことが望まれます。
●1つ目は、緊急連絡先の定期的な確認です。入社時に提出されたまま何年も更新されていない情報では、緊急時に使えないことがあります。
●2つ目は、一人暮らしの社員への配慮です。一人暮らしかどうかを管理すること自体が目的ではありません。緊急時に、誰へ連絡すればよいのかを確認しておくことが目的です。
●3つ目は、無断欠勤時の社内対応ルールです。出勤予定時刻を過ぎても連絡がない場合、誰が本人へ連絡するのか。何時間後、何日後に緊急連絡先へ連絡するのか。どの段階で警察へ相談するのか。これをあらかじめ決めておく必要があります。
●4つ目は、対応記録を残すことです。後から振り返ったときに、会社がどのように安否確認を行ったのかが分かるようにしておくことが大切です。
社員が突然来なくなったとき、会社は万能ではありません。警察がすぐに動いてくれるとは限りません。家族や親族がいない場合、会社だけでは確認できないこともあります。
だからこそ、日頃から緊急連絡先を確認し、無断欠勤が起きたときの初動対応を決めておく必要があります。
無断欠勤は、問題行動として見えることがあります。しかし、今回のように、背景に重大な事情が隠れていることもあります。会社が最初にすべきことは、決めつけることではありません。本人の安否を確認すること。事実を一つずつ確認すること。そして、会社としてできる対応と、できない対応を整理することです。
この経験談は、無断欠勤対応を単なる労務管理の問題として見るのではなく、社員の安全確認という視点から考える必要があることを教えてくれます。
参考資料
警察庁「行方不明者発見活動に関する規則の運用上の留意事項について」
大阪府警察「行方不明者届について」厚生労働省「モデル就業規則」等における無断欠勤・出勤督促に関する記載













