作成日:2026/08/26
退職金制度はそのままで大丈夫? 〜有期契約社員との待遇差をどう考えるか〜
令和8年10月1日から、改正された同一労働同一賃金ガイドラインが適用されます。
今回の改正では、これまでガイドラインに具体的な記載がなかった退職手当が、新たな項目として追加されました。
今回の改正では、これまでガイドラインに具体的な記載がなかった退職手当が、新たな項目として追加されました。
厚生労働省は、会社に対し、パートタイム・有期雇用労働者の各種待遇が追加された記載に即しているかを点検し、必要に応じて見直すよう求めています。
多くの会社では、退職金制度の対象を正社員に限り、パートタイム・有期契約社員を対象外としています。
これまでは「正社員と有期契約社員では雇用区分が違うから」と整理してきた会社もあるでしょう。
しかし、改正後は、雇用区分が違うという理由だけで待遇差を説明するのではなく、退職金制度の目的と、実際の働き方の違いを確認することが、より重要になります。
ガイドラインには何と書かれているのか
改正後のガイドラインは、退職手当について、労務の対価の後払いや功労報償など、さまざまな性質・目的があり得るとしています。
そして、その性質や目的が正社員だけでなくパートタイム・有期雇用労働者にも妥当するにもかかわらず、職務内容、配置変更の範囲その他の事情の違いに応じた、均衡のとれた退職手当を支給していない場合には、その待遇差が不合理と認められる可能性があると示しています。
厚生労働省のリーフレットでも、退職手当には労務の対価の後払い、功労報償などの目的が含まれ、これらの目的がパートタイム・有期雇用労働者にも当てはまるのに、働き方や役割の違いに応じた均衡のとれた内容を支給しない場合、不合理と認められる可能性があると説明されています。
ここでのポイントは、有期契約社員にも正社員と全く同額の退職金を支払わなければならない、と一律に定められたわけではないことです。
一方で、有期契約社員だから一律にゼロでよい、とも言い切れなくなったということです。
まず確認するのは「退職金を何のために支給しているか」
退職金制度を確認する際、最初に見るべきなのは金額ではありません。
まず、自社の退職金が何を目的としているのかを確認します。
例えば、退職金規程に「長年の勤続に対する功労報償」と記載されている会社があります。この場合、有期契約社員であっても契約更新を繰り返し、長期間勤務しているのであれば、その目的が有期契約社員にも当てはまるのではないか、という検討が必要になります。
また、退職金に「在職中の労務の対価を退職時に後払いする」という性質があるのであれば、正社員と有期契約社員の職務内容や責任、配置変更の範囲などを比較し、待遇差が合理的に説明できるかを確認しなければなりません。
ただし、ガイドラインは、退職金の性質や目的を会社が自由に後付けすればよいとはしていません。
待遇差は、職務内容や配置変更の範囲など、客観的・具体的な実態に照らして判断されます。単に「正社員は将来の役割が違う」「正社員を定着させたい」といった抽象的な説明だけでは足りないとされています。
会社にとっては簡単な見直しではありません
法律やガイドラインに沿った対応が必要であることは当然です。
しかし、会社の立場から見れば、退職金制度の見直しは、規程に一文を加えれば終わるような問題ではありません。
有期契約社員を退職金制度の対象に加える場合には、対象者の範囲、勤続年数の計算方法、契約と契約の間に空白期間がある場合の扱い、算定基礎となる賃金、支給率、自己都合退職と会社都合退職の取扱いなどを決める必要があります。
さらに、将来の支給額を試算し、人件費や資金計画にどの程度の影響があるかも確認しなければなりません。
対象者が多い会社では、制度変更による費用は小さくない可能性があります。一方で、対象者を限定したり、正社員とは異なる算定方式を採用したりする場合には、その違いが退職金の目的や働き方の違いに照らして説明できるかを整理する必要があります。
つまり、会社には次の二つの課題があります。
一つは、不合理な待遇差を解消することです。
もう一つは、制度を継続できる経営上の設計を行うことです。
どちらか一方だけを考えればよいという話ではありません。
正社員の退職金を引き下げればよいのか
費用負担を抑えるために、正社員の退職金を引き下げ、有期契約社員との待遇差を縮小する方法を考える会社もあるかもしれません。
しかし、ガイドラインは、不合理な待遇差の解消に当たっては、正社員の労働条件を不利益に変更するのではなく、パートタイム・有期雇用労働者の労働条件を改善することを求めています。
やむを得ず就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更する場合には、原則として労働者との合意が必要です。合意なく変更する場合には、労働契約法上の合理性が必要であり、ガイドラインは、このような対応を基本的に望ましいものではないとしています。
したがって、単純に正社員の退職金を下げて差をなくす方法は、安易に選択できるものではありません。
基本給を高くしている場合はどう考えるか 代替措置をどうするか
改正後のガイドラインには、退職金を支給していない場合でも、その見合いとして、労使交渉を経て基本給を高く支給しているなどの事情が考慮される可能性が示されています。
ただし、「退職金がない代わりに時給を高くしている」と会社が説明するだけで、直ちに待遇差が合理的になるわけではありません。
ガイドラインは、労使交渉を経ていることや、退職金を支給しないことと基本給の高さとの対応関係を示しています。したがって、賃金決定の経緯や制度上の位置付けを確認できる資料が必要になります。
後から説明を作るのではなく、制度を設計した時点の目的や労使協議の内容を記録しておくことが重要です。
10月から直ちに全員へ同じ退職金を支給するのか
今回の改正は、すべての有期契約社員に対して、10月1日から正社員と同じ退職金を支払うよう一律に命じるものではありません。
ガイドラインは、正社員と非正規雇用労働者の間の待遇差について、どのような場合に不合理となる可能性があるのか、原則的な考え方を示すものです。ガイドラインに反した場合には、その待遇差が不合理と認められる可能性があります。
会社が行うべきことは、まず自社の退職金制度を点検し、次の事項を整理することです。
退職金制度の目的
正社員と有期契約社員の職務内容
業務に伴う責任の程度
配置や職務変更の範囲
契約更新と勤続の実態
退職金を支給しない代わりとなる待遇の有無
待遇差についての労使協議の経緯
これらを検討した結果、現在の制度では待遇差を合理的に説明できない場合には、必要に応じて見直しを行うことになります。
📌 退職金制度の確認チェックリスト
自社の制度は説明できますか?
- 退職金規程に制度の目的が示されている
- 正社員だけを対象としている理由を整理している
- 有期契約社員の更新回数と勤続実態を把握している
- 正社員と有期契約社員の職務内容を比較している
- 責任の程度や配置変更の範囲を比較している
- 退職金がない代わりとなる待遇の有無を確認している
- 基本給を高くしている場合、その根拠と経緯を記録している
- 制度変更による将来費用を試算している
- 就業規則や退職金規程との整合性を確認している
- 待遇差を質問された場合に、客観的・具体的に説明できる
まとめ
今回のガイドライン改正により、退職手当についても、正社員とパートタイム・有期雇用労働者との待遇差を具体的に点検する必要があります。
ただし、求められているのは、単純に正社員と有期契約社員の退職金を同額にすることではありません。
退職金の性質や目的を明確にし、職務内容、責任、配置変更の範囲、勤続の実態などを踏まえ、待遇差が均衡のとれたものになっているかを検討することが必要です。
退職金制度の見直しは、将来の人件費や資金計画にも関わります。会社規模にかかわらず、一朝一夕に結論を出せるものではありません。
まずは、現在の制度の目的と対象者を確認することから始めましょう。そのうえで、費用への影響も含めて制度全体を検討し、必要な見直しを計画的に進めることが重要です。
次回は「病気休職・私傷病休職制度」を取り上げ、有期契約社員を制度の対象外としている場合の確認ポイントを整理します。













