第1回では、退職金制度を見直す際には、まず自社の退職金の性質・目的を確認する必要があることを取り上げました。
では、その次に会社は何をすればよいのでしょうか。
ここから必要になるのが、正社員と有期契約社員との具体的な比較です。
比較するのは退職金の金額だけではありません
正社員には退職金があり、有期契約社員には退職金がない。
この二つだけを比較して、「待遇差があるから問題」「金額が違うから問題」と判断するわけではありません。
会社では、退職金の性質・目的に照らして、正社員と有期契約社員の職務内容、責任の程度、職務や配置変更の範囲などを確認します。
そのため、少なくとも次のような事項を整理する必要があります。
- 退職金制度を設けている目的
- 正社員と有期契約社員の職務内容
- それぞれが負っている責任の程度
- 配置転換や職務変更の範囲
- 有期契約社員の契約更新の状況
- 実際の勤続年数
- 退職金以外の待遇との関係
- 待遇を決定した経緯や労使協議の状況
大切なのは、これらを個別に並べるだけではなく、退職金という待遇の性質・目的との関係で考えることです。
例えば、長期勤続への功労報償という性質を重視する制度であれば、実際の勤続期間が重要な検討材料となります。
一方、職務に対する労務の対価の後払いという性質を持つ制度であれば、正社員と有期契約社員の職務内容や責任などとの関係が重要になります。
10年以上更新している有期契約社員ならどう考えるか
例えば、正社員には勤続3年以上で退職金を支給する会社があるとします。
一方、有期契約社員については、何年間勤務しても退職金を支給していません。
その会社に、1年契約を10回更新し、10年以上勤務している有期契約社員がいた場合はどうでしょうか。
「契約期間が1年だから長期雇用ではない」という形式だけを見るのではなく、10年間勤務してきたという実態を踏まえて、退職金制度の目的がその社員にも妥当しないのかを検討する必要があります。
もちろん、10年勤務すれば必ず正社員と同額の退職金を支給しなければならないという意味ではありません。
正社員との職務内容、責任、配置変更の範囲などに違いがあれば、その違いも含めて均衡のとれた待遇になっているかを検討します。
「退職金がない代わりに時給を高くしている」はどうか
会社から比較的よく聞かれるのが、
「契約社員には退職金がありませんが、その分、時給を高くしています」
という説明です。
改正ガイドラインでは、退職手当を支給していないこととの見合いとして、労使交渉を経て基本給を高く支給しているといった事情について、待遇差を判断する際に考慮され得ることが示されています。
しかし、ここで重要なのは、「労使交渉を経て」「その見合いとして」という点です。
単に正社員より時給が高いという事実だけで、「退職金分を時給に含めています」と後から説明できるわけではありません。
どのような考え方で賃金額を決定したのか、退職金を設けないことと基本給の水準をどのように関連付けたのか、その過程を客観的に確認できることが重要になります。
特に中小・零細企業では、「前任者と同じ時給にした」「採用時の相場で決めた」といった形で、賃金決定の理由を記録していないケースもあります。
そのような場合、後になって「退職金の代わりに高い時給を支給していた」と説明しようとしても、それを裏付ける資料がないという問題が生じます。
今回の改正を機に、待遇の内容だけでなく、なぜその待遇にしたのか、その決定過程を整理しておくことも重要になります。
見直しが必要となったら、そこで終わりではない
こうした比較を行った結果、有期契約社員についても退職金制度を見直す必要があると判断したとします。
すると、会社はさらに具体的な制度設計を行わなければなりません。
何年以上勤務した社員を対象にするのか、契約と契約の間に空白期間がある場合はどうするのか、勤続期間をどこから計算するのか、正社員と同じ算定方法にするのか、それとも実際の違いに応じた制度にするのか、といった問題です。
ここまで来ると、退職金制度の見直しは単なる法律上のチェックではなくなります。
なぜなら、対象者を広げれば、会社が将来支払う退職金も増える可能性があるからです。
第2回のまとめ
今回のガイドライン改正への対応では、正社員と有期契約社員の退職金額だけを比較するのではなく、制度の目的と実際の働き方を踏まえて待遇差を検討する必要があります。
また、「退職金はないが、その分時給を高くしている」といった取扱いについても、実際にそのような制度設計が行われていたのか、その経緯を確認することが重要です。
そして、比較・検討した結果、制度の見直しが必要となった場合、会社にとって次の大きな問題となるのが「費用」です。
有期契約社員を新たに退職金制度の対象とすれば、将来の人件費や資金計画にも影響します。













