AIを社労士事務所で導入してみた
AIを社労士事務所で導入してみた
作成日:2026/04/16
第2回目:社労士業務を仕分けてみた。AIと相性が良い業務・普通の業務・悪い業務



この回で伝えたいこと

社労士業務には、生成AIと相性がよいものもあれば、そうでないものもあります。業務を分解すると、AI利用が向いている領域と、AI以外の方法を選んだ方がよい領域が見えてきます。大切なのは、何でもAIで進めようとするのではなく、業務ごとに最も合う手段を選ぶことです。AIに向かない業務があっても、それは効率化や正確性の向上ができないという意味ではありません。

前回は、澤田先生に「AIでやりたいこと」をリストアップしてもらい、課題を整理したことをお伝えしました。就業規則、給与計算、手続き、業務フローという4つの領域にわたって、さまざまなテーマが出てきましたが、そこには性質の違うものが混ざっていました。生成AIの活用が向いている業務もあれば、Excelや専用ソフトの方が向いている業務もある。さらに、個人情報の取扱い方針のように、使い始める前に整理すべきテーマもありました。

そこで今回は、業務ごとに「AIが主役になれるか」「補助として有効か」「別の方法を考えた方がよいか」を整理してみました。


仕分けの判定基準――◎○△の3段階と前提整理

まず、AI利用の仕分け基準から見ていきます。AIが主役になれるものを◎、補助として有効なものを○、別の手段の方が向いているものを△とし、あわせて、AI以前に方針を決める必要がある事項は「前提整理」として区分しました。

 

判定

意味

どんな業務が該当するか

◎ 相性よい

AIが主役になれる

文章の整理・要約、チェックリスト化、たたき台作成、観点の洗い出しなど

○ 相性普通

AIは補助として有効

ルールやフローの設計にはAIを使い、日々の運用はExcelやチェックリストに沿って人が回す

△ 相性悪い

別の手段が向いている

勤怠集計、届出期限の管理、書式調整など、手順が決まっていて、正確さと再現性が求められる業務

─ 前提整理

AI以前に決めるべき事項

個人情報の取扱い方針やツール選定など。次回以降で詳しく取り上げる

 

「△=使えない」ではありません。AIに向かない業務には、その業務に合った別のやり方があります。仕分けの目的は、業務ごとに最適な手段を選ぶことにあります。


業務を仕分けた結果、見えてきたこと

澤田先生のメモに挙がっていたリストをもとに、生成AIも使いながら内容を具体化した結果、施策としては20項目になりました。◎が8件、○が5件、△が3件、前提整理が4件です。ここからは、各領域の中から代表的なものを取り上げていきます。

就業規則まわりには、生成AIが力を発揮しやすい場面があります。例えば、

  • 条文を追加した結果、番号が重複していないか
  • 「第○条に定める」と書かれている参照先が、条文の挿入によってずれていないか
  • 休職規定を修正したときに、復職規定との整合が取れているか

こうした点は、関連箇所を横断して洗い出す一次チェックとして、AIを活用しやすい場面です。

また、法改正があった際に、影響を受けそうな条文を洗い出すたたき台として使うことも有効です。ただし、正確な改正内容や実際に見直しが必要な範囲は、条文、通達、厚労省のQ&Aなどの公的資料と照らして確認する必要があります。AIは一次チェックまで、最終判断は人が担う。この線引きは変わりません。

給与計算まわりは、向くものと向かないものに分かれました。昇給、入退社、扶養異動、手当変更といった変更点を、顧客からのメールやチャットから拾い上げて一覧にまとめる作業は◎です。形式の異なる情報を整理し、確認事項を見える形にする作業は、AIが得意とするところだからです。

一方、勤怠データの集計そのものは△です。手順が決まっていて、正確さと再現性が求められる定型計算は、AIよりも、Excelで集計ロジックを組んだり、勤怠ソフトの設定を見直したりする方が安定します。ただし、どのやり方が自社や顧問先に合っているかを考える段階では、AIに相談しながら整理していくことは有効です。

手続き関連では、手続き漏れを防ぐためのルール整理が○でした。入社手続き一つを取っても、役員か従業員か、正社員かパートか、新卒か中途社員か、で必要な届出は変わります。こうした条件分岐をQ&A形式の判定フローにしていく作業にはAIが役立ちます。ただし、AIは同じ質問を投げても答え方が揺れることがあるため、運用段階では確定したフローに沿って人が処理する方が安定します。

マニュアル作成は、AIと相性がよい領域です。特に、担当者の頭の中にはあるものの、まだ文書になっていない手順や判断のポイントを言葉にしていく場面で、AIが役立ちます。例えば、担当者へのヒアリング内容をもとに手順書の素案を作る、法改正や運用変更に合わせて既存マニュアルの見直し案を出す、内容理解を確認するためのテスト問題を作る、といった使い方ができます。

また、ベテラン担当者が経験的に行っている確認事項や注意点も、AIとの対話を通じて引き出していくと、他の人が使える形に落とし込みやすくなります。もちろん、実務で使う前には人の確認が必要ですが、ゼロから書き起こす負担を減らし、属人化しやすい知識を共有できる形に変えていくという点で、AIは有効だと感じました。


澤田先生が最初に選んだ2つの施策

仕分け表をもとに検討した結果、澤田先生が最初の一歩として選んだ施策は2つでした。1つ目は、労働保険の特別加入に関する、ある顧問先独自の対応マニュアルの作成です。担当者の頭の中にある運用ルールを、AIとの対話を通じて引き出し、文書化していく取り組みです。AIを「ベテランの経験則を言語化する補助役」として使う、相性のよい例といえます。

2つ目は、現在法人内で使っているExcelの進捗管理表の見直しです。これは、単にExcelから別のものに乗り換えるという話ではなく、何を管理したいのか、誰が入力し、誰が確認するのか、どこに不便があるのかを先に整理する必要があります。このテーマは表でいう「前提整理」に当たります。

しかし、前提整理の段階でも、AIは十分に活用できます。AIに壁打ち相手になってもらいながら現状と課題を整理していくと、必要な管理項目や全体の構成案、次に検討すべきことが見えやすくなります。

今回澤田先生が選んだのは、比較的成果が見えやすいマニュアル作成と、進捗管理の見直しという法人の運用基盤に関わるテーマでした。この2つに並行して着手する進め方は、無理なくAI導入を進めるうえで、現実的ではないでしょうか。

 


次回予告

3回では、生成AIを事務所で使うときの運用ルールについて取り上げます。仕分けができたら、次に必要になるのは「どう使うか」を決めることです。個人情報をどのように扱うか、どこまでAIに入力するのか。使い始めると最初にぶつかる壁を、試行錯誤も含めてお伝えします。